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◆観客を育てる
諏訪 今日ここに、若い、もしかしたらこれから映画を撮るかもしれない人がいるとすれば聞いていただきたいのですが、本当にそういう危機感を持って活動している人はそんなに多いわけではない。ある人は、ハリウッド映画は嫌いだと言いながら、自分の映画はハリウッド映画みたいなものではないと言いながら、だからお客さんはこなくていいんだと言っている。でも、ツァイ・ミンリャンさんとリー・カンションさんのおふたりは、今、自分たちの映画を、自分たちの力で、監督ご自身で、チケットを売って、お客さんを入れるということを始めました。
実際、ツァイ・ミンリャンさんがそういうふうに行動し始めてから、ツァイさんの映画は台湾でも多くの人に見られるようになり、成功していったわけです。僕は、以前、ツァイさんに言われて頭が下がりましたけれども、「お客が来ないと嘆いていちゃだめだよ。観客というものをクリエイトしていくのも自分たちの仕事なんだよ」とおっしゃっていましたね。
蔡 台湾でこの五年来、私がリー・カンションと一緒にやってきて、映画を撮るよりも、つらく非常に大変な仕事というのは、観客を一人ひとりを捕まえるようにして、映画館に足を運んでもらえるように頑張ってきたことです。
この『迷子』『楽日』の宣伝のために、私たちはマイクロバスに乗って台湾全土をぐるりと回り、宣伝に三ヶ月の時間をかけたわけです。このマイクロバスの宣伝カーにはポスターをぎっしり貼りめぐらせましたので、窓はすべてふさがっていました。その窓のないマイクロバスに乗って、私たちは台湾を走り回ったわけです。そして、台湾のほとんどの大学、70から80箇所でレクチャーを行い、映画のチケットを販売するというイベントを行ったわけです。
非常に遠くにある大学で、300人ぐらいの聴衆がいて、そのうちの100人が買ってくれたということもあれば、大きな所なのに、20人ぐらいしか買ってくれる人がいなかったということもありましたが、全く買ってくれる人がいなくても、私たちは宣伝を続けたわけです。
この五年来、私たちの会社では4本の長編と短編も1本、この同じような宣伝方法でやってきました。そして、台湾で毎年、興行収入のトップを記録しました。最初はほとんどいなかった状況から、まず3万人の観客を動員するようになって、次に5万人になり、この『西瓜』では13万人以上の観客を動員するようにまでなったわけです。
この『西瓜』の宣伝に行ったとき、ある大学では、聞きに来てくれる人たちに、顔見知りが非常に多くいることに気付きました。おそらく彼らは高校のときに、最初に私の作品を見に来て、同じようにレクチャーを聞いてくれて、そして大学に入った人たちかもしれないし、一年生だった人たちが四年生になった人たちかもしれないないのですが、この数年来で、観客層を徐々に獲得してきたということが、よくわかりました。
そして、その観客の質自体が変わってきました。最初、私たちの映画を観てよくわからないといっていた若者たちが、もう五年も経つと、とてもよく理解できたと言ってくれる。
このような社会運動的なイベントというのは、私とリー・カンションだけで、できることではなくてこういう若者たち、大学生が一緒になってやれたことです。若者たちもそういうことをするのはとても大事だと、理解してくれてよくやってくれています。
台湾で最近、映画を私とリー・カンションの映画を宣伝するときに、私とリー・カンションだけ、あるいは他の役者さんだけが、チケットを売りに行くというのではなく、大学生の応援隊が自主的にボランティアでやってくれています。例えば、『西瓜』のときは三人の大学生が10日間一生懸命チケットを売ってくれて、500枚売りさばいてくれたということもあります。それは彼らがこういうことが大事だと意識してくれたからだと思います。
諏訪 それは本当に大事なことだと思います。ツァイ・ミンリャンさんの映画は、けっして簡単な映画ではないと思います。なぜなら、我々はハリウッド映画が提示している、「世界というものをこういう風に見なさい、世界というのはこういうものだ」と、そういう見方に流されてしまっている。ポピュラーカルチャーというか、大衆文化というものは全然悪くない。むしろハイカルチャーとかポピュラーカルチャーとか、そういう区別自体が非常にくだらないもので、もちろんツァイ・ミンリャンさんの映画は、ポピュラーカルチャーとの結びつきも非常に強いし、そういうものも全部ミックスされている。だけど、やっぱり世界の見方ということに関しては、他の映画とは違うビジョンを与えてくれると思うんですね。
あるいは、人間というものはもっと複雑で、もっとこういう見方もあるんだと、こういう存在なんだと、我々の知らない人間というもののあり方を見せてくれます。それはアクセスするのも簡単じゃないかもしれないけれども、世界の見方というものが一通りになってしまう、たった一つの見方しかできなくなってしまう、ということはとても恐ろしいことです。映画というものは、人に見られるということに意味があるわけですから、こういうような活動をしている、いわゆる作家というものは、本当に今は世界的に見てツァイ・ミンリャンさんしかいないのかもしれない。そういう状況を広げていかなくてはならないと思います。
蔡 そういうことを私がここまでできたのは、リー・カンションはじめ、私の他のいつも出てくれている俳優さんたちが、みんな一緒にやってくれたからです。本当に彼らに感謝にしています。彼らはそういうことをする時に、いくら疲れているときも少しも文句を言いませんでした。リー・カンションは、この九月に第二作目をクランクインするために、今準備を始めています。しかし、やはり資金的にとても難しいです。それでも、私は決してコマーシャルフィルムの方向に転換する必要はないと言っています。お金がなくても、しっかりといい映画を撮るということがまず大前提で、そこからいろんなことが解決していけるんだと思っています。
諏訪 ただ、ツァイ・ミンリャンさんの『西瓜』を見て、これはコマーシャルフィルムではないかもしれないですけど、いわゆるハリウッド映画よりも、もっとゴージャスで、もっと楽しめる、なんとも形容の仕様がないような体験というものをさせてくれる映画だと思いました。
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