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映画初監督をつとめたデヴィッド・ドプキンが初々しい感覚を発揮したのは映像に対してだけではなかった。『ムーンライト・ドライブ』の全編を彩る様々な音楽に対しても、ドプキンは実に新鮮なアプローチを展開してみせてくれた。
様々な音楽が本作をバックアップしている。ジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』などへの出演/音楽提供でおなじみのジョン・ルーリーの手によるオリジナル・スコアはもちろん素晴らしいのだが、それ以上に本作の手触りを決定づけているのが、随所随所に挿入される数々のポップ・ソング群だ。
たとえば、ご存じエルヴィス・プレスリーの「アイ・ガット・スタング」(58年)と「イッツ・ナウ・オア・ネヴァー」(60年)。特に美しいイタリア民謡を改作した「イッツ・ナウ…」を、冷徹で残忍なシーンに当てはめたドプキンのセンスにはうならされる。
エルヴィスというのは、その深部にうごめく病巣までをも含めて、まさに20世紀のアメリカを象徴する存在。そんな彼の歌声と、一見穏やかなスモールタウンに巣食う狂気とが重なり合う瞬間は、間違いなく本作のハイライトのひとつだ。
その他パット・ブーンの「ムーディ・リヴァー」(61年)と「ホワイ・ベイビー・ホワイ」(57年)も、画面の背後にさりげなく流される。「愛さずにいられない」「スウィート・ドリームス」といった名曲のオリジネイターであるドン・ギブソンの「シー・オヴ・ハートブレイク」(61年)、西部劇俳優としても大活躍したジミー・ウェイクリーの「ムーン・オーヴァー・モンタナ」(46年)なども適所に配され選曲の妙を聞かせる。
さらに注目したいのは、昨今のアメリカン・ロック・シーンを大いに賑わしているオルタナティヴ・カントリー系の楽曲が多数使用されていることだ。
衝撃のオープニングを経てタイトルバックへと突入すると同時に流れるダラス出身のオルタナ・カントリー・バンド、オールド97ズの「タイムボム」を筆頭に、ウィスキータウン、リフレッシュメンツ、ファイアウォーター、マーヴェリックス、コラプシス、ライル・ラヴェットなど、そのスジのファンにはたまらない顔ぶれが勢揃いしている。
他にもオルタナ・ポップ・バンド、ヴァーヴ・パイプや新進女性カントリー歌手、サラ・エヴァンスの新曲がカー・ラジオから流れたり、酒場のBGMとしてちらっとかかったり。なかなか贅沢なツクリだ。
そして、西海岸のオルタナ・カントリー・バンド、トニックによる「うわさの男」(60年代から活動するフォーク系シンガー・ソングライターのフレッド・ニール作の名曲。映画『真夜中のカーボーイ』の挿入歌としてニルソンがカヴァーして69年にヒット)や、フロリダで結成されたギター・ポップ・バンド、シスター・ヘイゼルによる「レット・ユア・ラヴ・フロウ」(ベラミー・ブラザーズ、76年の全米ナンバーワン・ヒット)など、往年のヒット曲のカヴァーも楽しい。
いわゆる伝統的な“カントリー”と“オルタナティヴ・カントリー”と。一見親子のようにも思えるこの両者の魅力は、実はお互いまるで違う。
生ギター、ペダル・スティール、フラット・マンドリン、バンジョーなど、表層的な音楽スタイルを決定づける楽器は両者ともほぼ同じだが、そのたたずまいが違う。まなざしが違う。伝統的なカントリーが今もなお外に向かって“強いアメリカ”を象徴する指向性を持っているのに対し、オルタナ・カントリーが表現している世界はより内省的であり、しかし、それゆえにより激しく、よりコズミックでさえある。
ドプキンは本作で、その両者をある種絶妙のバランス感覚で交錯させながら、時の流れさえ止まったかのような……動いているものは雲ぐらいしかないかのようなアメリカのスモールタウンの情景をくっきりと浮き彫りにしていくのだ。
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