| ゴダールの映画の「豊かさ」とは
田畑 黒沢さんは蓮實重彦さんのインタヴューをお受けになった時に、ゴダールの映画が豊かである、というお話になって、「映画は豊かであって一向に構わない」ということをおっしゃってるんですが、ゴダールの映画の豊かさということについてちょっとお話して頂きたいと思うんですけど。
黒沢 そうですか。なんと言うんですかね、難しいな。とにかく文字通り豊かだと感じます。
ゴダールの映画を観たことがある方は分かると思うんですけど、一つ一つの映像、一つ一つの音が、非常に丁寧にしかもどれも引き立つように配置されていて、それがやはり一つの作品の中に物凄い量あるんですよね。
言葉もそうです。映画ってやっぱり2時間近くあったり90分だったり、ある程度長さがある訳ですけど、それをいったい幾つの要素で埋めていくのかっていうのが一つの映画作りのポイントとなるんですけども、一見贅沢に出来ているように見えるハリウッドの映画などでも、どんな要素があるかって数えていくとそんなに多くない場合が多いんですね。似たようなカット、やたら派手な音で一見豪華そうにやっていても、要素に分解していくと、そんなに多くはない。
ところがゴダールは一見非常にシンプルなストーリー、限られた映像、限られた音だけで出来ているように見えて、物凄い沢山の要素があってどれをも活かそうとしている。そこがやはりすごく豊かに感じるところですね。
田畑 サエキさんはいかがですか。
サエキ ゴダールってね、DJなんですよ。早すぎたDJというか。音のカットアップ、重ね方、つなぎ方などDJ的手法がたまらないですよね。
今回はその技術が、実は静かに駆使されています。映画を観たら一番注目してほしいのは川辺のシーンなんですね。「モスタル市エレトバ川岸でのシーン」ってここ(パンフレット)に書いてありますけど。パンフレットには菊地さんの素晴らしい分析が書いてある。このパンフレットは絶対買った方がいいですね。
菊地さんによれば、この映画では6本くらいマイク使って音を重ねてるってことで、例えば近くの音を遠くで流して、遠くの音を近くで流したりという技を使ったり、それからこの川岸のシーンでは別々に川の音と風と路面の音を録ってたものを混ぜてるって書いてある。とにかく美しくて、聞いたことがあるようで聞いたことがないような音に仕上げてるんですよ。
『アワーミュージック』のミュージック・ミックスは凄いですよ。僕は試写会で観たんですけど、試写会場にはDTSというサウンド・システムがなくって、今回公開している劇場シャンテ
シネではDTSという技術を使って、音域がはるかに広い音で上映されているそうなんです。僕はまだシャンテ シネには行ってないですけど、試写会より凄いものが聞けるということで、、是非菊地さんも観ていただきたいと思いますね。お金払わなきゃならないですけど(笑)。
ところで、ゴダールの音楽手法を、存分に味わう方法があるんですよ。ビデオとかDVDから音だけを録るんですよ。アナログコードでつないでね。画面を消したっていいようなものですけど、でもテレコやステレオで聞くのって、画面を消すのとはちょっと気分が違う。テレコとか今だったらiPodにとりこんで聞いたっていいですね。
ヘッドフォンで聞くより、スピーカーから適当に流すのが、僕は好きです。そうすると「えっ!こういう風に曲を挿入してるの?」っていうエキセントリックな音楽の入れ方なんですよ。『男性・女性』とかが特にいい。場面が変わっても音だけ残ってたりとかね。そういう変なことやってるし。サントラCDとかでは曲だけ抜き出してあったりして、絶対分からない。TVのイヤホンジャックから繋いでね。驚きますよ、けっこう変だから。
もちろん60年代映画が最高です。『男性・女性』『男と女のいる舗道』『勝手にしやがれ』とか。特に中期くらいが相当変なことやってると思ったな。何でそんな手法を考え付いたのかなっていう。
ゴダールの音だけを研究しても充分色々あると思いますね。

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