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ゴダール映画の尽きない豊かさ


 10月15日(土)いよいよ『アワーミュージック』が公開となりましたが、その夜麻布十番のクラブWAREHOUSEにて、『アワーミュージック』公開記念パーティが開かれました!
トークゲストに、サエキけんぞう氏と黒沢清監督を迎え、話をナビゲートするのは田畑裕美氏。
お話は劇中の音楽から9.11以降の世界にまで及び、『アワーミュージック』のスタートにエンジンをかけるトークショーとなりました。ぜひお楽しみください!



採録・構成:プレノンアッシュ

 


 

やりたかったこと全部が詰まった映画


田畑 皆さん、こんばんは。雨の中いらして頂きましてどうもありがとうございます。『アワーミュージック』は今日初日を迎えまして、さっき聞いたところでは、全回満席で初日としては『気狂いピエロ』に次ぐ40年ぶりくらいの大ヒットじゃないかということで、非常にめでたいことです。
この『アワーミュージック』という映画は、ゴダールがダンテの「神曲」みたいな映画を撮っていると聞いていて、また難しそうな映画を撮っているんだなと思っていたんですけど、出来上がってみると「私たちの音楽」というタイトルで、いつものゴダールらしくないっていいますか、色んな意味で今までのゴダールとちょっと違うような印象を受けました。
ゴダールって「孤高の監督」っていうイメージがあるんですけど、ちょっと変わってきたのかなと。サエキさんはミュージシャンというご職業柄、『アワーミュージック』という題名が付いちゃうとドキっとなさったりしたんじゃないですか?

サエキ ゴダールのタイトルってここ15年くらい凄い大仰なタイトルが多いんですよ。中でも驚いたのは『ヌーヴェルヴァーグ』っていうタイトルで。「ヌーヴェルヴァーグ」って、彼が出てきた時の映画運動全体を指してるじゃないですか。ということは、『勝手にしやがれ』に始まるようなあの頃の要素がまた復活して、ワクワクさせるような凄い映画かなって思ったら、おもいっきし人を寝かせる映画で(笑)。もう驚きましたね。何がヌーヴェルヴァーグなのか、僕はよく分からなかったですね、正直言いますと。
だからそんなこともあったんで、『アワーミュージック』って言われたときに、「どうなんだろう」と。『アワーミュージック』というタイトル付けたからには、音楽を一切鳴らさないとかね(笑)。そんなことやりそうじゃないですか。非常に不安な気持ちで観たんですけど。

田畑 疑心暗鬼だったんですね。

サエキ うん。でもやはりストレートに音楽的な映画でもありました。要するに安心したということですね、一言でいえば。

田畑 黒沢さんはフィルモグラフィーに『勝手にしやがれ!!』シリーズもあるように、ゴダールの影響を受けた監督のお一人だと思うんですが、今回の映画はいかがでしたか。

黒沢 はい。ゴダールに強い影響を受けて、今日まで僕も映画を作り続けていますけれど、今回はやっぱり「集大成」というと大げさですけど、三つのパートに分かれていて、僕、実は10ヶ月前に観ていて細かいところを忘れちゃったんですけど、最初はいかにも今のゴダールっていう感じで、まるで『映画史』みたいに始まっていたと思うんですけど、そこから第二部の煉獄篇がずいぶん変わって、なんとなく80年代くらいの感じで、ゴダール本人が出てくるあたりなんか特に・・・

田畑 例えば、どういう作品ですか。

黒沢 やっぱりすぐ思い出すのは、『右側に気をつけろ』かな。本人が出ている作品だからですけど。それで、最後の天国篇では60年代のゴダールを思い起こしましたね。思い切って奇想天外な設定で、例えば『ワン・プラス・ワン』とか。たぶんライフル銃を持った人が出てきたから、とりわけそう思ったのかもしれないんですけど。これまでのゴダールがやりたかったこと全部をこの一作に詰め込んだような、そんな印象がありました。

 


9.11と『アワーミュージック』


田畑 ゴダールはミレニアムから新世紀に入った、2001年に『愛の世紀』という映画を発表していて、これがまさに9.11を予見したような映画だったわけですが、アメリカのことを「名前のない国は信用できない」っていう風に言っていたりして、その後あの事件が起きました。『アワーミュージック』はその後に作られた映画ですが、彼が「私たちの」っていう言葉をタイトルに選んだ、そこにちょっとこだわってみたいと思うのですが。

サエキ 冒頭が地獄なんですよね。戦争映画のカットアップが繰り返されて、どうしようもないくらいに。でも必ずしも悲惨な映像ばっかりでもないんですよね。日本の映画からも引用がありまして。何でしたっけ、あれは。

黒沢 『天と地と』引用されてましたね。

サエキ 原爆の記録映像みたいなものも出てきたもりする。あと、西洋中世を描いた劇映画からの引用もあったりするので、そういうところが面白かったりもして。戦争というものがどうしようもないということから始まる訳ですよね。
で、「人が生き残ってるのが不思議なくらいだ」って、そんなセリフもありました。僕はこれが好きで。こんなに戦争ばっかりしてて、「人間が生き残ってることの方が不思議だ」って、ことですよね。これ名セリフだなと思って。ゴダールって最初の数分間くらいのセリフに賭けてるところがありますよね。『気狂いピエロ』なんかでも最初にすっごい印象的なセリフがいくつか出てくるんですよね。今回はこれが最高。「こんなに戦争ばっかりしてて、生き残ってる人がいる方が不思議だ」っていう意味ですよね。
そんな世の中で「音楽」というものがどういう位置するかというか、どういう意味を持つか?ということがテーマなんじゃないですか?人によって答えが違うと思うんですけど。世の中というか世界・地球そのものが戦争そのものですね。つまり戦争産業というものが世の中を作ってるところがあって、でも普段見えないじゃないですか。それなしでは暮らしていけないような人とかも、実は沢山いる訳で。それが、局所的に顕在化するとああいうサラエヴォみたいになったりする。
ああいうふうにフィルムでバーっと戦争映像だけを流すとすっげえ迫力ですよね。そのどうしようもない感じと、音楽ってものの孤高な感じ。音楽って「救い」とかそんな言葉でいうことさえももどかしいような、ある種、戦争とは別な次元のことなんですね。こっちは死体の山、こっちは酔狂でつくっている何か気楽なものだったり、みたいなね。
その圧倒的な対比っていうことが、今回『アワーミュージック』というタイトルに結びついてるのかなって僕は思ったりしましたけど。黒沢さんはどうですか、そのへん。

黒沢 え?

サエキ タイトルについて。

田畑 全然聞いてない(笑)。

サエキ すいません、もう一度質問に戻った方がいいですよ。

黒沢 (サエキさんの話に)聞き惚れてて。僕、何か質問されてたんですか?

田畑 9.11が…。

黒沢 ああ、9.11か。それはなかなか答えづらいことですけど、この映画を観ていいなあと思ったのは、「天国」というパートが描かれているってことですよね。
今サエキさんが仰ったように戦争があって、こんなに戦争してきて、まだ人間が生き残っている。それが一つの「地獄」だとしたら、その後、「煉獄」。
現代のサラエヴォですか、場所は。そこで生き延びてる人たちもそんなに幸せではない。で、あまりここでネタをばらすようなことはいいませんが、第二部のラストでは結構悲惨なことになる。そこで終わると9.11以降、と言うか現在、どこにも救いがなくなると思うんですけど、ちゃんとその後の「天国」というパートを描いているっていうのがすごく…単純に天国に行けてよかったねという訳ではないんですが、それでも「仮に人類がほとんど滅亡しても、その後っていうのがひょっとしてあるのかもしれない、その後のことまで考えてみようよ」っていうメッセージのような気もいたしましたね。
逆じゃなくて本当によかった。つまり天国から始まって地獄で終わるのでなく、やっぱり最後は天国、それが救いでしたね。

田畑 ゴダールが天国を描いたのって初めてですかね。

黒沢 おそらく初めてだと思いますし、「天国」という言葉というかそういうところにゴダールが言及したのもほぼ初めてなんじゃないですかね。こんなことをいう人だとは思ってなかったですから、ちょっと驚きでした。

田畑 やっぱりあの、歳を取ってきたというか…。

サエキ 天国が近づいていると?俺、今言おうと思って、絶対言うのやめようと思ったんだよね(笑)。是非元気でいてほしいですね、もうしばらくは。75歳だそうで。

田畑 そうですよね。でも作品を観ると、全然枯れてもいないし瑞々しいし、びっくりしますよね。

サエキ 盛り返してる。今回お客さんも盛り返してるそうで、良かった良かったと思って。

 

 

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サエキ けんぞう
(さえき・けんぞう)

ミュージシャン、作詞家、プロデューサー
1980年「ハルメンズの近代体操」でデビュー後、パール兄弟を結成。 モーニング娘。「愛の種」など、多数の作詞を手がけ、テレビ、ラジオ出演の他、エッセイスト、プロデューサー、 ゲンズ・ブール委員会として幅広く活動中。
2003年にはフランスでソロアルバム「スシ頭の男」を発売、フランス5カ所のツアーを行う。 窪田晴男とのパール兄弟活動も再開し2004年に再びフランスで9カ所のツアーを行い、2005年NEWアルバム「カマンベール&スシ」を、フランスでリリース。 

黒沢 清
(くろさわ・きよし)

1955年生まれ。映画監督。
立教大学在学中より8ミリ映画の自主製作を手がけ、大学卒業後には長谷川和彦、相米慎二らの助監督を経てディレクターズ・カンパニーに参加。83年に『神田川淫乱戦争』で商業映画デビュー。
92年にはオリジナル脚本『カリスマ』がサンダンス・インスティチュート (U.S.A.) のスカラシップを獲得し、2001年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品された『回路』は、国際批評家連盟賞を受賞した。
田畑 裕美
(たばた・ひろみ)

「ハーパース・バザー日本版」副編集長として
映画・文学・旅などを担当。
以前在籍した「エスクァイア日本版」では、ゴダール特集、ヌーヴェル・ヴァーグ特集などを手掛ける。
サラエボには1999年、ジャズ・フェスティバルの取材で 10日ほど滞在。

天国でのオルガ。劇中より