1-俺は二十歳っ! ここは東京六本木! の時代・「GO ! GO ! ゴダール」(!?)の頃
2-ピンク色の館内・ゴダールに萌え萌え
3-次は拳銃を撃ってくれ!・ フランソワ・ミュジーの仕事

4-映画探偵VS音響探偵
5-ゴダールの エレガントな誘惑

ゴダールの エレガントな誘惑


菊地 そんなわけで、今回のゴダールはフツーに観ても、面白いですよね。だから冷えびえするだろうと思って行くと、動揺しちゃうんですよ。こんなに面白いってことに。「いいの?」っていう。どうせ断られると思って行ったら、やらしてくれたみたいな(笑)。

青山 (笑)。

菊地 「いいの? いいの?」っていう興奮が(笑)。そういう意味では、完全にゴダールが久しぶりに「誘惑に出た」っていうかね。『愛の世紀』までは長い間、誘惑行為に出てなかったんですけど、この映画(『アワーミュージック』)では「もう完全に誘惑しますよ」「アジテイトしますよ」っていう感じになってて、誘惑された観客もドキマギしちゃって、もう興奮しちゃってるっていう感じが映画館に漂うような作品と言ってもいいと思いますね。

青山 そうですよね。

菊地 あ、もうこんな時間だ。何か映画探偵的にはありますか?

青山 いやいや、今日は菊地さんの音響探偵ぶりに度肝を抜かれた状態ですけど、さっそく家に帰ってヘッドフォンで聞かなきゃとか思っちゃうんですけど。

菊地 最初のタクシーのシーンは本当に凄いですよ! あとゴダールの講義のシーンも凄くて。

青山 変ですよね、あのシーン。

菊地 アレ、すごい変わってますよ!

青山 たぶんアフレコのところとかもありますよね。

菊地 あると思いました。シーン自体も凄いですよね、ゴダールがぱっと写真を見せて、「これはいつのどこの写真だと思う?」って、見るとボロボロの廃墟の写真なんですよね。学生が第二次世界大戦のどこだとか、湾岸戦争の時のどこだとか、色々言うんですよ。大体、当たり障りのない我々が知っている近代20世紀の戦争の焼け跡だろうっていう説が全部出終わった後に、ゴダールが静かに「南北戦争の時のリッチモンドだ」っていう。もう、シビレまくりみたいなね。「そんなに格好良くていいの?」っていう。

青山 「それがどうしたんだよ!」とか言いたくなるけど(笑)。

菊地 「だから何だよっ、オヤジ!」っていう気持ちもあるんですけど。ファザコン女子学生によると、ジュンときちゃうみたいな。「そうですか! 南北戦争ですか」みたいな感じのとこもあって。でもゴダールの講義のシーンの音の型っていうのが物凄いんですよ。音楽がググっと不自然に上がるっていうミュジーの手法でゴダール印の応酬で、シベリウスの音楽が流れてきたらブツって切れたり、クルタークの現代音楽が流れてくるとブツっと終わったりして。静かに入ってきてブツって切れるっていう「ゴダールブランド」みたいなものをこれでもかこれでもかとつるべ打ちして、そっちに耳がいってる間にセリフの定位が変わったりとか、面白いんですよ。

青山 どっちかに流しておいて、不意に定位を変えたりっていう技を使うんですね。

菊地 そうですね。さっきゴダールがこっちで喋ってて、今後ろ向きになったんだから
こう聞こえるばずだっていうのを全部裏切っていくんですよね。後ろ向きになったのに、声がこっちから反響して聞こえるようになってるとか。「これ見よがし」っていうと聞こえが悪いけど、「誰が観てもすごい!」って言われた『ヌーヴェルヴァーグ』を頂点とすると言われている「ソニマージュ」の音響実験がありますよね。あれが頂点で、『愛の世紀』と『アワーミュージック』に関しては、「ちょっと大人しいな」っていう印象を皆さん持つと思うんですよ。ですけど、録音の「SON」っていうクレジットを見ると分かるんだけど、一番「猛爆」と言われてる『新ドイツ零年』でもフランソワ・ミュジーの一人なんですよね。

青山 ああ、今回三人ですよね。

菊地 『愛の世紀』から三人になってて、録音技術のマイク立てる人が三人いないと間に合わないほど、技術が更に精緻化して、表面上は物凄く地味になってる(笑)。

青山 マイク増量なんですね。もう(仕事が)多すぎて。

菊地 ミュジーが一人で全部やって、一人で仕切るっていう手には追えない仕事の量になってきたっていうことですね。僕、残りの二人に関してもすごい調べたんですけど、まだ調査中で。一人は『愛の世紀』でも組んでる人なんですけど。

青山 昔、『右側に気をつけろ』の時だったかな、一人助手がいたんですよね。

菊地 そうそう。

青山 クレジットで助手は並びで出るんですよね。

菊地 並列なんですよね。それが三人仕事になってて。

青山 三人っていうのは初めてですよね、たぶん。(*『決別』もクレジットは三人。『フォーエヴァー・モーツアルト』は二人)

菊地 『愛の世紀』からですよね。「20世紀ゴダール」ですよね。だから仕事の量は増えて地味になったっていうところがね、「発狂のソニマージュ」から「誘惑のソニマージュ」に変わったということで。

青山 それがこのタイトル(パンフレットの菊地さんの原稿の題名)なんですね。

菊地 そうそう。「誘惑」に完全に成功しているっていう。なんていうか「完全なエレガント」っていうか、フランス料理とか懐石料理に似た、地味なんだけど物凄い精緻なキーとかが使われるっていう風に「ソニマージュ」が変わってきてますよ!

青山 パンク時代があってね。

菊地 前は、これ見よがしに「どうですか!この脱構築ぶり」っていう感じがあったけど(笑)。今はパッと見ると普通の通俗映画と同じじゃないかっていう感じで。

青山 普通に聞こえるんですよね、一見ね。

菊地 そうそう、ぱーっと行っちゃうとね。ところがトンデモナイって風になってました。「地獄篇」ももちろんすごくて、でも言うとネタばれになるから、言えない(笑)! 『カルメンという名の女』の頃は二十歳で、こんな仕事もしてなかった訳ですけど、もし『カルメン〜』を振られたら一生懸命スジを全部言うじゃないですか。

青山 全部言いますね!

菊地 言ったって何の問題もないじゃないですか。今回これだけ「言えない、言えない」っていう感じがするっていうのは、それだけ普通に観てもよく出来てる。

青山 とにかく、ご覧になって楽しんで頂きたいんですよね!

菊地 これまでのゴダール・フェアの死屍累々を乗り越えて、この『アワーミュージック』に関しては「行く」んじゃないかっていう気がしてるわけですよ(笑)!

 

 


1-俺は二十歳っ! ここは東京六本木! の時代・「GO ! GO ! ゴダール」(!?)の頃
2-ピンク色の館内・ゴダールに萌え萌え
3-次は拳銃を撃ってくれ!・ フランソワ・ミュジーの仕事

4-映画探偵VS音響探偵
5-ゴダールの エレガントな誘惑

 

トークショー後には菊地さんの新刊「CDは株券ではない」のサイン会も。続々と列が続きます。
第一回爆裂鼎談へ!