映画探偵VS音響探偵
菊地 さっきみたいに「全体にハードボイルドのイメージがあるな」って思っていて、あとからゴダールには必ずつき物ですけど、インターテクスチュアリティ(注2)っていうか、チェックしてみるとちゃんとチャンドラーのセリフで終わってたりとか、跡付けがあったりしてしっかりしてるんですよね。蓮實・フロドン対談のときに青山さん仰ってましたよね、あの電車の移動撮影について(注3)。
青山 手持ちカメラって、80年代ゴダールのカットにはあんまりないんですけど、『アワーミュージック』の第二部の「煉獄篇」のワンカット目が、路面電車を手持ちのカメラで追っかけるんですよね。ジョン・フォードの『リバティ・バランスを射った男』の一番ラストのカットが手持ちで、やっぱり汽車が去っていくっていうシーンで終わるんですけど、そこから始めてるのかって感じがしちゃって。
菊地 あーなるほど。そこでもう映画探偵(注4)ぶりが(笑)。
青山 映画探偵なんで、僕(笑)。今ちょっと流行の。
菊地 それにしても、その仮説が「なるほど」と指向できるような、ジョン・フォード的な面白さっていうかね。
青山 そうなんですよね。インディアンまで出てきますからね。
菊地 あ、ネイティブ・アメリカンですね。
青山 ええ、ネイティブ・アメリカン(笑)。
菊地 いや、別にいいですけどね。エスキモーね(笑)。いやいや、あのネイティブ・アメリカンの存在だけちょっとフェアリーっていうか、あとは全員、実在してる人じゃないですか。イスラエルの詩人とか。
ネイティブ・アメリカンの人だけ目をつぶってて、開くと出てるような感じじゃないですか。これもパンフに書いたんですけど、ネイティブ・アメリカンの人達が出てくるときだけ、環境音の定位が変わるんですよ。サラエヴォの焼けちゃった図書館に色んな人達がやってきて、一人ずつイスラエルとかアラブの人達の立場のセリフを喋っては消えていくっていうシーンがあるじゃないですか。
で、カットも2回変わりますよね。ヨーロッパの室内っていうのはあのくらいの天井だと大体エコーがかかるんですけど、戦争で窓が壊れちゃってるから、空気が逃げてノン・エコーなんですよ。その前に大使館のシーンでは物凄いエコーがかかってるんですけど、この廃墟の図書館のシーンになるとエコーが切れてて、その代わり外の市場の音と、石炭ストーブの燃えてる音と、会話の音と、微かにそれでも天井から返ってくるエコーの音があって、4チャンネルくらい録ってると思うんですよ。最初、環境音マイクとカメラが対面関係になるようになってるんですけど、ネイティブ・アメリカンになるとカットが変わるんですよね。
青山 逆向きになるんでしょ? 後姿で入ってくるんですよね。
菊地 そうそう。あの時だけ。ヘッドフォンで聞くと分かるんですけど、劇場でパッと観るとほとんど(分からないくらいで)あり得ない効果ですけど、サブリミナルくらいでサッと過ぎてしまうんです。前のカットの位置の環境音が同じように残ったままになるですよ。
青山 えーと…。
菊地 要するに音だけカットが変わってないような感じ。
青山 ずっと?
菊地 そうそう。
青山 ヘェー。
菊地 でね、カット変わりがきたとき元に戻るの。「そんなことまでお前調べてんのか」っていう感じですけど(笑)。
青山 すごいっスねえ。
菊地 音響探偵ですから(笑)。
青山 音響探偵ですねえ(笑)。
菊地 フランソワ・ミュジーおたくですからね(笑)。そういったカットが変わっても環境音のマイクが残ってるとか、細かい工夫に満ちてるんですよ。あと「煉獄篇」の最初で、主人公たちが車に乗ってサラエヴォ市内に入っていくってシーン。ちょっと泣いたりして。あそこも凄いんですよ。タクシーの音と、カーラジオの音と。カーラジオの音がアップになると、パリの夜景と二重写しみたいな夜景に繋がっていくんですよ。サラエヴォの夜景がパリの夜景に似てる感じに繋がっていくっていうシーンが2回あるんですけど、どっちもカーラジオの音から跨いでいってるんですよね。そこで録られてるセリフが車の中で同時録音で録ってるものと、アフレコで別に録ってるセリフを二つ用意してかけ替えてるんですよ。
青山 そうなんですか。
菊地 そう、定位で分かるの。車のブーンってエンジン音があるんじゃないですか、それが切れたり、戻ったり、結構意外と細かいことをしてるんですよね。セリフに効果を当てたくなると環境音がパッと切れたりして、その途中で突如入ってきたり、音楽と定位が入れ替わったりとかして。
青山 それはアフレコのリップが合ってる状態でってことですか?
菊地 たぶんそうだと思います。要するに二つ録ったと思うんですけど、セリフによってはアフレコの方の音源出して、同録のも使ってっていう。アフレコのはほんの一瞬出てくるだけなんですけど。
青山 たぶんミュジーはProTools(注5)を使ってるから、割とリップを合わせるのとかは楽勝で出来るんですよね。
菊地 今相当のことが出来るんですよね。
青山 ウチも今やProToolsでやってますけどね。
注2)
インターテクスチュアリティとは、ある一つの言語テクストを、それに先立つ様々なテクストの引用の織物としてとらえ、その依存関係・批評関係を明らかにする相互テクスト性。
注3)
1月16日(日)、東京日仏学院で「第10回カイエ・デュ・シネマ週間」の一環として『アワーミュージック』が先行上映され、その際、今回「爆裂対談シリーズ」に参加している阿部和重、中原昌也、青山真治、菊地成孔の各氏をはじめ、黒沢清氏、浅田彰氏など多くのゴダール映画の論客(ゴダール・ファン)が集まった。
上映後には、蓮實重彦氏と現「カイエ・デュ・シネマ」編集長のジャン=ミシェル・フロドン氏の対談が行われ、その後、蓮實氏より前記の各氏にコメントを求めてマイクが回された。
注4)
このキーワードが気になる方はこちらへ→第一回爆裂鼎談「はんぷくトリオの爆裂鼎談」へ!
注5)
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1-俺は二十歳っ! ここは東京六本木! の時代・「GO
! GO ! ゴダール」(!?)の頃
2-ピンク色の館内・ゴダールに萌え萌え
3-次は拳銃を撃ってくれ!・
フランソワ・ミュジーの仕事
4-映画探偵VS音響探偵
5-ゴダールの
エレガントな誘惑
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