次は拳銃を撃ってくれ!
菊地 こんな風にストーリーを言って、「やばい、ネタばれだ」ってなること自体がゴダール映画では珍しいですよね。
非常に観念的な映画が多いですから。今回のゴダールはホントに、通俗映画みたいにスジ言っちゃうと、もう内容が分かっちゃうっていうね、言えない側面があって言っちゃうとつまらないので、言えないですよ。
そういう面白さがあるんですけど、とにかく今回のゴダールは、ファザコン気のある人はぜひ行ってみてください。
「ここまで冷たいのか、女子学生に」っていう感じが非常に良いですね。
青山 ということは、もうゴダール映画には主演男優はいらないですね。ゴダール一人でいいのかもしれないですね。
アラン・ドロンが出てきたり、さっき(『決別』)のジェラール・ドパルドューが出てきたりとか、色々フランスのスターを使ってましたけど、もはや「オヤジ一人いればいい」って感じになってきましたね。
菊地 老境に至って二枚目の主演をやり始めたところがゴダールの凄いところだと思いますね。
若い頃から、好い男に好い男役をふって、自分は映画監督っていうある種の引いた立場から綺麗な女優さんと素敵な俳優さんを使ってっていうのをずっとやってきて、その内いろんなことがあって、最後70代になってミエヴィルに縛られて泣いて、それが緩くなったら突如として二枚目俳優として堂々たる主演で登場してしまったという、そのことにまず驚かされる。
青山 いや、それでいいんじゃないかなと思いますね。
菊地 全然、恥ずかしくないですよね。最後まで普通に観れてしまう。「あれ、今の、ゴダールだよね? あのイイ男、ゴダールでしょ?
全然ふざけなかったんだけど」っていう。
青山 素晴らしい芝居ですよね。
菊地 素晴らしいですよね。70代に入って恥も外聞もなく、綺麗な女優さんにモテるイイ男役をやり始めたっていうのは、ちょっとウディ・アレンに似てるけど、ゴダールはガタイがデカイから本当にかっこいいですよね。
青山 本当に顔が小さくて肩幅が広くて、がっちりしてるんですよね。
菊地 そうそう。葉巻、吸っちゃってね。
青山 いやー、もう今回観て一番思ったのは、「次は拳銃を撃ってくれ!」っていう。
菊地 僕も思いました(笑)。
青山 「次は拳銃でしょ?」っていう。「撃て、ジャン=リュック!」
菊地 (笑)。「撃て、ジャン=リュック」っていうのも凄いですよね。次は拳銃も撃つし、トリコロールも戻ってくるし、カモメも鳴いてて、自閉症も逆に戻ってくるみたいにね。最終的にジャン=ポール・ベルモンドと一致していくっていうね。
青山 で、最後「俺は最低だ」って言って死んでいくみたいな(笑)。
菊地 円環していくっていう。よく分かんない(笑)。
青山 よく分かんないよね(笑)。
フランソワ・ミュジーの仕事
菊地 まあ、ネタばれしてもいいか。最後にロールの自宅に帰るじゃないですか。あれほぼ自宅ですよね。
青山 たぶんそうだと思いますね。
菊地 それでガーデニングしてるじゃないですか。
青山 それはね、そのネタはやめた方がいいかもしれない(笑)。
菊地 やめた方がいいか(笑)。じゃパンフを読んでください、書いてありますから。僕が言いたいのは、フランソワ・ミュジーの仕事に関してです。
青山 ええ。
菊地 フランソワ・ミュジーっていうのは、ゴダールの『パッション』以来のパートナーで、ゴダールの音楽、録音設計、フランス語で「SON」っていうんですけど、大きく「音響」という仕事を担当していて、ヴェネチア映画祭で録音設計賞を2回、10年おきに獲ってる人なんですけど、この映画の争点になったことが一箇所あって。徹底してハードボイルドでクールなゴダールが、一瞬、お茶目なところを見せるシーンがあるんですよ。
青山 一瞬、ボケるんですよね。
菊地 ボケるんですね。あれが天然なのか作りなのかっていうのは、もう既に試写会場でファザコン女史が色めき立って言ってましたからね。重要な点だと思うんですよ。
青山 馬鹿ですねぇー(笑)。
菊地 まあ。そんなバカな楽しみ方も許されるっていうのがこの映画のいいとこでね。そこでゴダールのあのカットが果たして天然なのか芝居なのかっていうことを確かめるべく、特別に貸して頂いた『アワーミュージック』のVTRを僕、50回近く観たんですよ。おそらく日本で一番観てるのは僕なんじゃないかと思うくらい(笑)。
何故かというと、フランソワ・ミュジーのサウンド・トラックのマイクの位置とか、何本マイク使って、どのタイミングでクルタークの音楽が入ってくるのかとか、どこでプツって切れるかとか、パンフレットを書くために、メモを一回全部立ち上げたんですね。
ヘッドフォンで聞いては戻して、聞いては戻してってやったんですけど、その問題のシーンが事故か芝居かっていう証拠として録音をどうしてるかっていうのを、パンフに書きました。
フランソワ・ミュジーっていうのは、皆さんご存知だと思いますけど、「ソニマージュ」っていう音とセリフと効果音とあらゆる映画上の音響がめちゃめちゃになっていくっていう仕事をしていて、音楽ファンがゴダールを語る上では重要な人物なんですけど、その音響設計が、今回の『アワーミュージック』と『愛の世紀』ではすごい地味になっていて、『ヌーヴェルヴァーグ』での「ソニマージュ」の爆発とか『右側に気をつけろ』みたいなパンキッシュでノイジーな感じっていうのは影を潜めてしまって、パッと見ると通俗映画のメロドラマのように見えるようなんですけど、よくよく聞くと、もの凄く複雑な変わったことをしてる。手の込んだ解析みたいな仕事を、とことんしてるんです。
青山 ああー。僕らなんかはついにカモメが鳴かなかったとか電話の音が電子音になったとか、そんなことでびっくりしたり喜んだりして、それが何なんだっていうのもありますけど、そうなんですか。そんな複雑なことをしてるんだ。
菊地 その問題のシーンっていうのは、画面上の手前に電話があって、ガラスで隔てられて窓の向こうにゴダールがいるっていう位置になってるんですけど、鳴る音の定位が逆になってるんですよ。
一番向こうにいるゴダールの出す音が一番手前に入っていて、ゴダールを呼び出すべく鳴る電話の音が一番奥にあるんですよ。明らかに向こうのゴダールにフォーカスを合わせるように録音設計がされてるんですよね。要するに映像と録音の定位がまったく逆になってるっていう緻密な工夫に満ちてて。
青山 「俺に合わせろ!」って言ったんですかね。
菊地 「音楽的なフォーカスこっちで」ってね(笑)。あらかじめ準備してたわけです。

1-俺は二十歳っ! ここは東京六本木! の時代・「GO
! GO ! ゴダール」(!?)の頃
2-ピンク色の館内・ゴダールに萌え萌え
3-次は拳銃を撃ってくれ!・
フランソワ・ミュジーの仕事
4-映画探偵VS音響探偵
5-ゴダールの
エレガントな誘惑
|