| ゴダールとイーストウッドは背中から撃つ!
蓮實 やはりゴダールというのはジョン・ウェインよりはクリント・イーストウッドに似てるわけですね。
青山 といいますと?
蓮實 ジョン・ウェインは絶対に悪い奴を背中から撃たない。
青山 そういう法則はありますね。
蓮實 ところがクリント・イーストウッドはもう瀕死の奴でも撃っちゃう。
青山 はい、はい。
蓮實 この点では、ゴダールは背中から撃つんですよ、ひどい…
青山 止めの刺し方が似ている、というわけですね。
蓮實 似てるんです。そのジョン・ウェインとクリント・イーストウッドの違いですね。これは役柄において仕方が無いんですけど、ジョン・ウェインの遺作『ラスト・シューティスト』の撮影中に、監督のドン・シーゲルがそうした演出をしようとしたら、俺はたとえ悪人でも背中からは撃たないと抵抗したらしい。ところが、イーストウッドは背中からでも、瀕死の奴でも撃ってしまう。ジョン・ウェインはそれを撃たずにおく。そのときゴダールがどっちにつくかというと、フォードの『捜索者』のジョン・ウェインには感動したといいながら、実際にはクリント・イーストウッドの側についてバンバン瀕死の奴を背後ろから撃つ。
青山 はい、はい。
蓮實 これはどうですか?青山さんはいつか瀕死の奴を背中から撃てます?映画の中でも、なんでも。
青山 これですよね。
蓮實 これが最大の問題なんですよね。
青山 ええ。
蓮實 ゴダールは撃つんです。
青山 ええ。映画の中で、という意味を超えますからね、その時。
蓮實 そうなんですね。
青山 僕はおそらくいつかやるでしょうね。他人がどういう風にそれを解釈するかは別として、やってしまうであろうと思います。そこまでの勇気がその時あるかどうかですね、結果的には。
蓮實 勇気と、もうひとつは、世界に視線を馳せる原則の問題だと思う。勇気だけじゃなくて、そこはもう撃たなきゃいけないと思ったらなんでも撃つ。おそらくそれを撃てる人たちだけがゴダールの異母兄弟、異父兄弟であるというふうに僕は思っているのです。実はイーストウッドの最近作『ミリオンダラー・ベイビー』を観ていると、なんとなくこのイーストウッドは背中から撃ちそうじゃなくなってきたじゃないですか。むしろ僕は、イーストウッドは誰か背中から撃ってくれと言っているようにみえるんですね。
青山 そうですね。自分で撃つんじゃなくて。
蓮實 だから僕は『ミリオンダラー・ベイビー』は失敗作というか、彼の原則から外れた映画だと思っているんです。こうなったら、やはり彼を背中から撃つ人を待っているという、それを今度は他の映画作家がやらなくちゃいけないかもしれない。
青山 ええ。
蓮實 クリント・イーストウッドはいいと言っているのではなくて、私は彼を背中から撃ち始めようと思ってついに『ミリオンダラー・ベイビー』だけはベスト10から排除しました。
青山 はい、そうですね。
蓮實 私は実に律儀に戦っているんです。
青山 存じ上げております。
蓮實 殆ど意味のない戦いですが。
青山 というよりも、それを誰かが読み取らなきゃいけないわけです。世界に向かって蓮實先生がベスト10をあげたときに、なぜか今年はイーストウッドが入っていないということに気づく人がいない。この状況はいかがですか?
蓮實 まぁ、世界というのはその程度のものだと思います。私の態度なんてどうでもいいと思いますからあまり重視していないんですけれども、『ミリオンダラー・ベイビー』が本当にいいと思っている奴は敵だと思いますね、僕は。
青山 確かに僕はあれでも号泣したわけですが…。
蓮實 それは泣きます。
青山 号泣したからってすべて許すわけではないんですね。泣きゃいいってもんじゃないってことが映画にはあってですね、泣かされたからといって素晴しい映画かどうかは別問題だし、それに対する態度っていうのがしっかりこちら側で出来ていなければならないもんだと思うんです。
蓮實 それはほぼ1950年代に「カイエ・デュ・シネマ」が解消した問題です。新藤兼人監督の『裸の島』で泣きに泣いて、だからこれは悪い映画だと彼らは言ったわけです。実は泣いている自分がもう許せないということで、『裸の島』が悪い。これが一種の「カイエ・デュ・シネマ」における作家主義の走りみたいなものなんですね。
青山 そう、そのことをあらためて確認しておきたい。
蓮實 それはしょうがないことだと思うし、わたしもその方向にいます。僕は『ALWAYS』だって泣いちゃうわけですよ。
青山 『ALWAYS』っていうのは『三丁目の…』
蓮實 『…三丁目の夕日』
青山 はい、はい。ええ、ええ。
蓮實 でも、許さない。でも、ことによるとこの人は何か今後やるかもしれないなぁとぐらいは思うわけです。そこのところは、私はとても寛容でして、あたったからあれが悪い映画だとは思わない人間で、その意味では映画作家・青山真治の敵かもしれない。
青山 そうですね。いつもそこについては、僕の方も油断しておりませんし、いつ何時、何が起こるかわからない、という体勢で身構えております。ことによると僕の方が先に先生の背中を撃ってしまうかもしれませんから。そう簡単には背中を見せてくれるとは思ってませんですけど(笑)。
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